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−わたしは今、ここにいる。

目を閉じれば、いっぱいの潮風。
賑わう街、行き交う人々。

なのに、彼だけがそこにいない−


Ragnarok Online Side Story "Day After Before."

Episode1-1:迷いの森


「ほら、早くしなよ」 「そ、そんなこと言ったって…待ってよ姉さん」
慌てふためく弟を尻目に、わたしは溜息を一つついて窓の外の町並みを見やる。

わたしの名前はリセス。これでもいっぱしの冒険者だ。
目の前にいるのはわたしの弟。名前はリジィ。
わたし達はこのミドガルド大陸を冒険しながら旅をしている。

目的は、エンペリウムと呼ばれる鉱石。

この世界が変革の時を迎える時、どこからともなく現れるという伝説の石。
それを手にする者は莫大な富と名誉を手にするという。
遥かな昔、神と魔と人との間に起きた争いの伝承にその記述がある以外、エンペリウムの存在は伝説だとずっと信じられてきた。
…そう、ほんのつい最近までは。

「姉さん、準備できたよ…姉さんってば」 「え?…あ、あぁ、ごめんねリジィ」
「じゃ、行こう?」 「ん」

頷きあってわたし達は歩き出す。
それが最悪の冒険の始まりとも知らずに…。

ここはイズルード。この国の王都プロンテラのすぐ南に位置する比較的小さな街。
昼夜を問わず様々な露店が軒を並べ、街の中央にある広場はいつも人気が絶えない。
わたし達は今、ここを旅の拠点にしている。プロンテラ程人が多くなく、それでいて大陸の中央にあるこの街はわたしのお気に入りだ。
露店で手早く旅仕度を整えると街を出る。今日の目的地は王都の北にある「迷いの森」。
噂ではここに何か凄いお宝があるらしい。ただ、同時に凶悪なモンスターも存在しているらしく、それが時々王都の近くまで彷徨い出てくるのだという。
その現象の確認、モンスターの退治、ひいてはお宝の確保に向かった人間は何人もいるが、生きて逃げ帰ってくるのはその1/3もいないのだそうだ。
最近じゃ下水道にかつて退治したモンスターが繁殖してるとか、イズルードの近くにある島に洞窟が発見されたとか。
つくづくこの辺りの土地は冒険の材料に事欠かない。

この頃のわたしは天狗だった。幼い頃から様々な冒険を重ねてきたわたしは、同じ年頃の冒険者よりも遥かに多くの修羅場をくぐってきた。
その自信が、わたしから「慎重」という言葉を失わせていた。いつしか一緒に冒険をするようになった弟を連れて、わたし達は世界中を回った。
今にして思えば、それはあまりにも無謀な挑戦だった。噂の端をつつくだけでもキリがない程におぞましいその森に。
わたしは何の疑いもなく進んでいたのだから。

「…結構奥まで来たわね」
いつしか深く鬱蒼と茂る森の奥へと足を踏み入れたわたし達…なんだけど。
たしかにここに来るまでにモンスターと戦ってきたけど、正直そのどれもが歯ごたえの無い相手ばかり。
「…これじゃわたしのダマスカスも錆付くってものよねぇ」
手にした獲物を指で軽く遊ばせて溜息をつく。いつぞやの冒険で偶然手に入れた古代王国の遺産と思しき短剣だ。
「でも姉さん、油断しちゃだめだよ…どんなモンスターがいるかわからないんだから」
不安そうにリジィが声をかけてくる。この子は本当に心配性だ。
「へーき、へーき。ま、いざとなったらあんたが回復してくれるしね♪」
そう言ってわたしはニヤリと笑う。

この子はアコライト。神に仕え、癒しと救済を生業とする職業だ。
わたしは神様だなんて信じちゃいないけど、この子の癒しの業には何度もお世話になっているのだから意外と神様っていうのも馬鹿に出来ない。
でもまぁ「困った時の神頼み」って言うくらいだし、何だかんだ言ってわたしも結構心の底で神様信じてるタイプなのかな…うーん。
わたしはシーフ…といっても盗みを生業とする人種ではなく遺跡なんかを旅してお宝を集める、いわゆるトレジャーハンターだ。
わたし達に両親はいない。わたし達は物心がついた頃からずっと自分達の力だけで生きてきた。
だけど今はそれを誇りにして生きている。

力と運。

それがわたしの信じるもの、わたしを支えている全てだ。

「…森の中にこんな所があったなんて」
しばらく進んだ所で急に視界が広がる。そこは木々が切り開かれ、ちょっとした広場のようになっていた。
見ると、先の方に橋が見える。その袂にはプロンテラ軍の物であろう軍帽を被った衛兵が二人、番をしていた。
(…なるほど。ここまでは誰でも来れる場所…この橋の向こうが本命、ってワケね。面白いじゃない、そうでなくっちゃ)
わたしは橋の先にある森から感じられる異様なプレッシャーを打ち消すように軽く唇を舐める。
一方…さすがに不安なのだろう、リジィはしきりに辺りをきょろきょろと見渡していた。
「…姉さん、やっぱり」 「怖いならあんただけでも戻れば?わたし一人でいくからさ」 「む、無理だよそんなこと!」
必死に首を左右に振るリジィ。わたしを心配してか、それとも一人で戻るのが怖いのか…この子の場合、両方かな。

「おい、あんたら」
橋の手前で、予想通り衛兵の一人に声をかけられる。
「…ここまでわざわざ来たって事は今更俺らの話なんて聞く気も無いんだろうが…これも仕事だからな、一応言っておくぞ」
そう前置いて、憮然とした表情で衛兵がわたし達に釘を刺す。
「悪い事は言わん…ここから引き返すんだ。ここに俺らが立っている意味…あんたらなら、分かるだろう?」

つまり。

(…今回の件はプロンテラ王国が直に統括・管理してまで処理しなければならないレベルの事件ってこと、か)
しかも冒険者の立ち入りを結果的に止めないと言う事は王国内部でもこの件の処理にてこずっている、という事になる。
時々流れ出てくるモンスター。その発生源の特定と排除。たったこれだけの仕事に、だ。
軍の人間がこんな所で門番まがいの仕事をしているのがその何よりの証拠。
それこそ一個大隊でも派遣すればすぐにでも解決しそうなものなのに。
それだけ特別な「何か」が、この森にはある。そして王国はその「何か」を恐れている。
だから現在まで誰もこの件に対処しきれず、「英雄」の登場をただ待つしか出来ないのだ、彼らは。

英雄。

エンペリウムは「英雄の証」とも言われている。
それはエンペリウムに選ばれた人間が特別な「何か」を持っている、ということ。その石は、主を選ぶ意志を持つ。
もしかしたらこの場所に…いや、最悪エンペリウムが無かったとしてもこの事件を解決できればそれは「英雄的な働き」になるであろう事は間違いない。
(…英雄、ね。ここいらでその「資格」とやらを頂こうじゃない)
わたしは衛兵の言葉に耳を貸さず、迷わずこの「地獄」の境界線を跨ぐ。もう…後戻りはできない。
迷いは無い。無いはずだ。わたしには力と運がある。だから必ず生きて帰る。もう一度、この世界へ。
そう、何度も繰り返し自分に言い聞かせる。

…でも。

「リジィ、あんたやっぱ戻りなさい」
リジィがえっ、と声を上げる。あの子は境界線を…跨いでいない。
当然だろう。わたしでさえもこの「地獄」の圧迫感に少なからずプレッシャーを感じている。
この子もこの子なりの感覚でその「威圧感」を感じ取っているのだろう。街を出る時の元気が嘘のようだ。口数や行動を見ていてもそれがわかる。
やはりこの子には無理だ。リジィはずっと境界線の「向こう側」から不安気な眼差しを投げかけてくる。
「で…でも」 「いいから戻りなさい。ここから先、今のあんたじゃ足手まといにしかならないわ」
…何かあった時に、正直今のわたしにこの子を守れる自信は、無い。
これまで経験した数多くの冒険の中で、初めてそう思った。同時にそれが今のわたしの精一杯なんだということも。
情けない話だと思う…でも、ここまで来たからにはもう後には引けない。
戻るにしても、少なくとも今回の件に関する何らかの情報を引き出さない事には帰るに帰れない。これは立派な「仕事」なのだ。

わたし達トレジャーハンターは、何も宝捜しだけが商売じゃない。
宝や遺跡なんかの情報を他者に提供して金を稼ぐ事もある。それが入手困難な宝であればあるほどその情報は高く売れるからだ。
場合によってはその情報を餌にわたし達の知らない別の情報を引き出せる事もある。
それゆえに情報はその中身が最も重要だ。最悪宝がダメでも、それに変わる「何か」をこの森から引き出さなきゃ。

「…一緒に戻ろう」
そんなわたしの考えを遮るようにリジィが叫ぶ。
「戻ろうよ姉さん!この事件は僕達の手に負えるものじゃないよ!」
あの子の言っている事は正しい…たしかにそうだ。そう思う。でも、だからと言ってはいそうですか、と引き返せる訳が無い。
いつの間にか弱気に…後ろ向きな考えをしていた自分に気づいてわたしはぎゅっと拳を握る。
こんな事じゃダメだ。情報じゃない…わたしは宝を見つけて帰るんだ。
「…なら、あんた一人で戻る事ね」
心を鬼にして冷たく言い放つ。これでいい…これでいいんだ。
「姉さん…待ってよ……姉さん!」
その言葉に耳を貸さず、わたしは立ち尽くすリジィを背に一人、この「地獄」の奥へと足を踏み出した…。

To Be Continued...



<あとがき>

というわけでとりあえず第一話です。まずは全体の触りから、ということで。
この話はわたしのキャラ(りせす)の髪型がシーフのデフォ髪型だった事から思いついた話です。
今後の展開も非常に分かりやすくなってます。大筋は皆さんの考えている通りでしょうw
ちなみに、ゲームのりせすはずっとアコライトです。シーフを作った〜とかそういうのは無いです。
あと「リジィ」は話の都合上勝手に作ったキャラです。実在のモデルは特に存在しません。
それと、今後の展開如何ではPT・ギルドの仲間を勝手に登場させるかもです。多少キャラが違っても怒らないでね?(ぉ

あと、ゲーム内の時系列は滅茶苦茶です。
このストーリー開始時は話の前後を考えて時期的にβ1初期くらいをイメージしていますが、その頃伊豆やエンペリウムはまだ存在しませんw
なのであまり深く考えないで読んでいただけると幸いです。

そんなわけでこれからもゲーム内での実体験とフィクションをうまいこと組み合わせて(ぉ、話を書いていこうと思います。
まったり更新の予定ですので、皆さんもまったりお付き合い下さいませw

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